そしてアイツに恋をする

犬猿の仲。
なんてよく言うけれど。
まさしくアタシとアイツはそんな関係。




「邪魔」
「お前が邪魔」

口を開けば暴言しか出てこない。
アイツはアタシにとって“敵”でしかない。

「誰がお前よ。あんたにそんなふうに言われる覚えはないんだけど」
「お前以外に誰がいるんだよ」

友達に言わせると、「よくもまぁ毎日同じような言い合いが出来るわね」らしいんだけど。
アイツが悪いのよ、全部。
いつもいつも人を見下したみたいに。
しかもアタシだけ。
他の子に対してはそれほどひどくないのに。

「あんたのことが好きなんじゃないの?」

皆そう言うけれど。
そんなわけがないじゃない。
だって、アイツの言葉には確実に“悪意”があるもの。
騙されないんだから、アタシは。




「は? お前大学行くの?」

突然後ろから声がして、私は驚いて振り返った。
そこにいたのはアイツ。

「勝手に見ないでよ!!」
「別に。見えただけ」

あまりに驚いた所為で勢いあまって握り潰してしまった進路調査票。
そこには隣町の大学の名前が書いてあった。
実は、まだ誰にも言っていない。
それをアイツに見られるなんて!!

「家出るのかよ」
「関係ないでしょ」
「まぁな」

アイツはそれきり何も言わなかった。
いつもならもっと突っ込んでくるのに。
そう思いつつ、私はくしゃくしゃになった進路調査票を広げる。
ずっと悩んで、決めた答え。
まだ、親にも話してない。
反対されるのは目に見えてる。
でも……。





「ちょ、あんたどうしたの」
「大丈夫?!」

学校に行くと、友達が皆駆け寄ってきた。
それ以外の人も、何事かとこっちを見ている。

「へーき。なんでもない」

私はそう答えて自分の席に着く。
ズキズキと痛む右頬。
冷やしてないから余計に痛む。

「お前……なんだその顔」

アイツがアタシに言った。
なんかもう、無性に腹が立つ。

「うるさいな」
「可愛くねぇな、ホントに」
「うるさいって言ってるでしょ!!!」

今までにないくらいの大声を上げた。
アイツを始め、教室中の人がびっくりした顔でアタシを見てた。
なんだかもう、堪え切れないものが溢れてきた。

気がついたら、走り出していた。




「泣いてんのかよ」

誰もいない屋上。
ひたすら一人で泣き続けた。
そこに現れたのは大嫌いなアイツ。

「なんであんたがここにいるの」
「気になったから」
「あんたなんかに気にされても嬉しくないのよ」
「だろうな」

なんなのよ。
最近のアイツはどっかおかしい。
調子が狂ってしまう。

「お前の泣き顔なんてそうそう見られるもんじゃないし」

ムカ。
こういうところが、こいつのむかつくところ。
どうしていつもこうなんだろう。

「親かよ、それ」

アイツが言った。
アタシは言葉に詰まった。

「大学の、ことか?」

アイツは続けた。
アタシは黙ったまんまだった。

「言いたくないなら別にいいけどよ」

それから、アイツは黙った。
アタシは、泣いた。




「ねぇ、あんたアタシが嫌いなんでしょ?」
「お前がそう思うのならそうなんじゃねぇか」
「どういう意味、それ」

なんでこのときのアタシは、アイツと二人でいたんだろう。
いつもだったら絶対に嫌なのに。
アイツと二人になると、いつも口喧嘩になって……。
だけど今日は、いつもとは少し違って。

「嫌いだなんて思ったこと、一度もねぇよ」
「嘘っ。じゃあなんでいっつもあんな態度なわけ?!」

アイツのアタシに対する態度はひどい。
絶対に嫌いだとしか思えない。
なのにアイツは、アタシのことが嫌いじゃないと言う。

「お前がそういう態度をとるからだろ?」

何それ。
アタシが悪いって言うの?

「アタシはあんたがそういう態度をとるから……!!」

ここにきて、はたと気付く。
結局は、そうだったのだ。
アイツが嫌な態度を取るからアタシもそういう態度を取る。
アタシが嫌な態度を取るからアイツもそういう態度を取る。
アタシたちは、鏡みたいなもんだった。

「もう、なんなのよ、あんた一体……!!」

私が、叫ぶように言ったその瞬間。
体がぐっとアイツの方に引き寄せられた。

「えっ?」

気がつけば、アイツの腕の中。
一瞬何が起こったのかわからない。

「ちょ、あんた何してんのよ!!」
「俺はお前のこと嫌いだなんて思ったことは一度もない」

アイツはもう一度さっきと同じことを言った。
そのとき、今まで散々言われてきた言葉を思い出す。

──アイツ絶対あんたのこと好きなんだってば。

抱きしめられた、この状態で、「嫌いじゃない」なんて言われれば。
誰だって、そう、思うでしょう。

「お前は俺が嫌いなのかよ」
「きっ、嫌いじゃ、ない、けどっ」

嫌いだ嫌いだと思っていたのに。
何故か「嫌いじゃない」なんて言ってしまったアタシ。

「嫌いじゃないなら、何?」

何って言われても。
アタシのアイツに対する気持ちなんて……あれ?

「わ、わかんない」

全然わからなかった。
だって、今の今まで、アタシたちは犬猿の仲で。
なのに急に「嫌いじゃない」なんて言っちゃって。
じゃあなんなのって、アタシが聞きたい。

「俺は好きだけど? お前のこと」

何それ。
なんだ、結局、皆の言う通りだったわけ?

「アタシは……」

あぁ、なんだ。
今やっとわかった。
アタシも、アイツと同じだった
アタシとアイツは鏡だったから。



そして今、アタシはアイツに恋をする。





【あとがき】
3万Hit御礼小説は、なんかよくわからないものに。笑
ホント私、短編が苦手みたいです。
長編ならもう思いっきり書きたいことを詰め込めるんですけど。
短編はそれをまとめなきゃいけないからホント大変。
私はやっぱりこれからも長編で頑張ります。笑

2万Hit達成からわずか1ヶ月での3万Hit達成。
本当に驚きましたが、それ以上にとてもとても嬉しかったです。
どうかこれからも「Secret tears」を、よろしくお願いいたします。

未希






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