出来るなら、あの日に帰りたい。
きつく抱きしめあった、あの日に。
そして……もう一度君と生きてみたい。

もう一度だけ

「祐樹!!」

俺の名前を呼んで、太陽みたいに笑う。
そんな夕実が好きだった。
その笑顔に、いつだって救われてきた。
俺は、ホントにホントに夕実が好き……だった。




「祐樹? もう私、祐樹と一緒にいられない」
「……どういう意味?」

その日は突然訪れた。
“これから行ってもいい?”というメールがきて数分後。
俺の家にやってきた夕実は、部屋の中に入らずにそう言った。

「自分の力、試してみたいの」

その言葉で、俺はすぐに理解した。
ついにこの日がきたのかって、妙に冷めた自分がいたんだ。

「行くのか、アメリカ……」

俺の言葉に、夕実は頷いた。
夕実には、夢があった。
通訳士になるっていう、夢。
そのために、アメリカ留学がしたいってずっと言ってた。
でも俺は……どうしてもそれを許せなかった。
側に、いてほしかった。

「もう、決めたのか?」

その質問にも、夕実は黙って頷く。
そしてじっと俺を見上げる。

「どんくらい、行くの?」
「一応、3年……」
「延びる可能性もあるってわけだ?」

また、こくっと首が縦に振られる。
夕実は、俺より夢をとったんだ。

「祐樹の、こと、すごく大切だったよ?
でも私、どうしても夢を諦めきれない。
祐樹の側にいたいけど、祐樹の側にいたままじゃ夢は叶わないの!!」

“大切だった”
過去形のその言葉が俺の胸に突き刺さる。

「祐樹は、祐樹の世界世界で生きてく。
私は、私の世界で生きていくよ」

いらない、って。
お前なんかもういらないって、言われたような気がした。

「遠距離でも、続けようとか思わないわけ……?」
「無理、だよ」

苦笑して、夕実は答える。
なんで、即答なんだよ。

「だって、離れてからもこの関係を続ければ、私きっと帰りたくなっちゃう。
祐樹に会いたくて会いたくて、必死に悩んで夢を選んだのに、意味なくなっちゃう。
そんなのは、嫌なの。
ちゃんとけじめつけて、夢を……叶えたい」

それは、もう揺ぎ無い気持ち。
俺が何を言っても……きっともう届かない。

「わかった、よ……」

引き止める力すら、このときの俺にはなかった。


こうして、俺達は別れた。




「あれから3年、か」

夕実がアメリカへと旅立って3年。
俺は今も、夕実を忘れられないでいる。
夕実とは、一度も連絡を取っていなかった。
調べればすぐにわかる夕実の住所も、連絡先も、俺は調べようとはしなかった。
怖かったんだ。
もう一度、拒絶されるのが。

「なぁ夕実、お前今、何してる?」

部屋の窓から空を見上げる。
この空の向こう、夕実は笑っているだろうか。
俺の好きなあの笑顔で。
夢に向かって、歩き続けているんだろうか。

「夕実……? 俺、今年もまた一人だよ」

今日は俺の誕生日だ。
夕実と別れてから、三度目の誕生日。
一人ぼっちの、誕生日。

「ハァ……」

溜息をついた、そのときだった。
玄関からインターホンが聞こえてくる。

「なんだよ、ったく……」

フラフラしながら玄関に行って、ドアを開ける。
相手が誰か確かめることもしなかった。

「こんにちわ!! ○○宅配便です!!」

無駄に笑顔な男が、小さな箱を俺に向かって差し出してきた。
実家から誕生日プレゼントか?と思いながらそれを受け取る。
だけど俺は、差出人を見て目を見開いた。

「夕実……?」

3年間なんの音沙汰もなかった夕実。
その夕実の名前が、確かにそこにあった。

「なんで……」

動揺を隠し切れないまま、受領印を押すと、宅配便の男は帰っていった。
俺はすぐにリビングに戻って箱を開ける。
包装とかそんなものは気にせずに。

「こ、れ……・」

俺が箱の中身に気をとられていると、今度はケータイが鳴った。
ケータイを手に取り、ディスプレイを見ると、知らない番号。

「もしもし……?」
『もしもし? 祐樹?』

電話の向こうから聞こえたのは、聞き覚えのある声。
俺が知っているのより、少し大人びたような声だった。

「夕実か……?」

その名前を口にすることすら、恐怖に感じた。
あの日が甦ってくる。

『帰ってきたよ、祐樹。
どうしても祐樹の誕生日がお祝いしたくて、帰ってきちゃったよ』

涙声。
泣いてんの?
なぁ、なんで泣いてんの?

『私やっぱり、祐樹のことが忘れられなかった。
会いたくて会いたくて、でも、帰るわけにはいかなくて。
頑張ったの。本当に、頑張ったんだよ?
いつか祐樹に会える日だけを楽しみにして……勉強してきた』

離れてたこの3年間。
俺達は、ずっとお互いを想ってたのか?
同じ気持ちで、ずっと……。

『祐樹、ごめんね。あんなふうに別れたのに、また電話なんかしてごめんなさい。
でもね、好きなの。祐樹が好き。
祐樹と一緒にいたいの……』

嘘みたいだ。
もう一度夕実の口から“好き”なんて言葉が聞けるなんて。

「夕実……今どこにいんの?」
『祐樹の……家の前』

その答えを聞いて、俺はすぐに家を飛び出した。
勢いよく開けたドアの向こうに見えた、一人の影。

「夕実っ!!」
「祐樹……」

3年ぶりに会う愛しい人が、そこにいた。
駆け寄って、抱きしめて、頬に触れる。

「ホントに、ホントに夕実か? 夢じゃねぇよな?!」
「祐樹……会いたかった……!!!」

俺の背中に腕を回す夕実。
夢じゃ、ないんだ。

「夕実……」

嬉しくて、ただ嬉しくて。
夕実の頬を伝う涙にそっとキスをする。
唇を離すと、夕実と目が合った。
夕実はにこりと笑って、目を閉じる。
今度は、唇に、キスをした。
3年分の想いを込めて。




夕実から届いたプレゼントは、前に二人でカタログを見ていたときに俺がほしいと言っていた時計。
そしてそれに添えられたメッセージカード。



“もう一度、祐樹と同じ時を刻みたい”





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