Rain

「雨、か……」

放課後。
図書館での調べ物を終えた私は、学校の玄関で立ち尽くしていた。

「げ。雨じゃん!! 傘持ってないし!!」
「最悪〜」

今日の天気予報は晴れ。
ほとんど生徒が傘など持ってきていないようだ。私も、その一人。
どうやって帰ろうか悩んでいる所に、後ろから肩を叩かれる。

「美沙。何してんの?」
「あ、有里」

同じクラスの佐藤有里。
そんなに仲がいいわけでもないが、たまに話をする子。
長い髪をひとつにまとめていて、とても可愛らしい顔をしている。

「え、雨〜? 今日天気予報晴れだったじゃん」

どんよりとした空を見上げて、有里は顔を顰めた。
私も「うん」と頷く。

「傘持ってきてないからさ。どうやって帰ろうかと思って」
「親迎えに来れないの?」
「ん〜、仕事」
「そっか。実はうちもなんだよね〜。どうしよ」

私と有里は二人して空を見上げる。
鈍い色をした空からは冷たい雨が落ちてくる。
コンクリートに打ち付けられた雨が、独特のにおいを放つ。

──元気かな、先輩……。

ふと、そんなことを思った。
まだ、褪せることのない記憶。

「走るしかないか」

私がぼーっとしていると、有里がそう呟いた。
地面に打ち付けられる雨の音で、その声はかろうじて私の耳に届く程度。

「有里んちこっから近いっけ」
「ううん。駅までダッシュ」

有里はそう答えて鞄の中からタオルを取り出した。
そしてそれを頭の上に乗せる。

「美沙はいつもチャリ通だよね?」
「うん。近いから」

私の家は学校から自転車で20分くらいの所。
もちろん今日も自転車で登校した。

「んじゃあ、あたし行くね。電車に遅れる」
「あ、うん。頑張れ」
「おぅ!!」

そうして有里は私に手を振って走っていった。
束ねられた髪が、揺れていた。

「さて」

こうなってしまうともう仕方がない。
私は意を決して自転車置き場に向かって歩き出した。




「冷てぇ〜〜」

ザーザーと雨に打ち付けられながら、私は家へと急いだ。
そんなとき、またふと昔のことを思い出した。
昔と言っても……2年前だが。








───────…………。



二年前。高校1年生のとき。
私には彼氏がいた。名前は大川光輝。
一個上の先輩だった。入学してすぐに好きになって、告白して、すんなりとOKをもらった。
そして、付き合い始めた。



「美沙〜、帰るぞ〜」

放課後は、いつも先輩が私のクラスまで迎えに来てくれていた。
それが何よりも嬉しくて、私は先輩に向かって駆け寄る。
こうして放課後二人で帰るときだけが、二人でいられる時間だった。

「この間の雨で桜全部散っちゃったね〜」
「そだな」

学校の近くにある桜並木の桜は、2日ほど前に降った雨で全部散ってしまっていた。
今年は開花の時期が例年より遅くて、いつもとは少し違った桜が見れていたのだけど。

「綺麗なものほど儚いってホントだよね」
「何似合わないこと言ってんだよ」

そう言って先輩は笑った。
そんな先輩の態度に私は頬を膨らませる。

「ちょっとセンチメンタルなんです〜」
「センチメンタル? お前が? ありえねぇ〜」

二人で、桜並木を歩いた。
桜は散ってしまっていたけれど、二人で桜の木の下を歩くのが、私は好きだった。

「あ、雨」

そんなとき、雨が降ってきた。
ぽつぽつと、私たちを雨が打つ。

「あの店入るぞ。走れ!!」

先輩にそう言われて私は近くの雑貨屋に走った。
繋がれた手は、温かかった。

「また降ってきたね……」
「あぁ」

私たち二人は、雑貨屋の店先で雨が止むのを待った。
コンクリートに大粒の雨が打ちつけられて、そこら中に独特のにおいがしていた。
鼻につんとくる、あのにおい。

「美沙……」
「ん?」

先輩が、ふと口を開いた。
私の方を見ずに、前を向いたまま。

「別れようか、俺たち」
「え?」

それは、あまりにも、突然の言葉だった。
どうしてそんな言葉が今出てくるのかがわからなかった。

「ど、して……」
「好きな奴が、出来たんだ」

心臓を鷲掴みにされた気分だった。
痛い。
痛くて痛くてたまらない。

「ごめん、な」

そう言って先輩はそのまま走り出した。
雨はまだ降り続けている。
頬に、雨か涙かわからない、雫が流れた。


───────…………。






「あぁ〜、さすがにこれは無理だ!!」

雨は一向に止む気配もなく、私は仕方なく近くの店に入ることに決めた。
制服がすでにびちょびちょだ。

「あ、あの雑貨屋……」

ふと、あの日の雑貨屋が目に入る。
私は無意識のままに雑貨屋の店先に入った。

「あのときと同じ、か……」

あのときと同じ。
雨が降っている。
ただ違うのは、隣に先輩がいないこと。

「どうしてるんだろ、先輩」

あれから二年。先輩は就職している。
別れて以来、ほとんど会うこともなくなった。
たまに学校内で会っても、私は目を合わせることも出来なかった。

「美沙……?」

名前を呼ばれて私はものすごい勢いで振り返る。
“もしかしたら”
そんな気持ちが働いていた。

「やっぱ美沙じゃん」
「あ、原田君……」

そこにいたのは、私が期待した人物ではなく、同じクラスの原田彰正だった。
原田君は私服を着ていた。
どこかへ行く途中だろうか。

「何? 雨宿り?」
「うん。傘持ってないから」
「貸そうか?」

原田君はそう言って私に傘を差し出す。
私はブンブンと首を振った。

「え、いいよ。もうこんな濡れちゃってるし!!
それに今からどこか出かけるとこじゃなかったの?」

私が尋ねると原田君は「まぁ……」と曖昧に返す。
やっぱりどこかに出かけるところだったらしい。
尚更、借りるわけにはいかない。

「いいよ、俺一回家帰るから。すぐそこなんだ」
「ダメだって、そんなの!!」
「いいんだよ。その代わりと言っちゃなんだけどさ、今度……一緒にどっか行かないか?」
「えっ?」

ひとつの恋が終わった場所。
ここから、新しい恋が始まる予感。
今日も、雨が降っている。





【あとがき】
こんなもので申し訳ないですが、1万Hit御礼小説です。
何故季節外れの「桜」が出てくるかと申しますと、これは昔書いた小説だからです。爆
いや、1万Hit御礼小説用に書いてたものが予想外に長くなりまして。
連載に回すことにしたので・・・。
せっかくのお礼小説なのにこんな手抜きで申し訳ないです。
ちょっとだけリメイクはしてあるんですが。
本当の1万Hitのお礼は、いずれ始まる連載ですのでお受け取りくださいませ。笑

1万Hit、本当にありがとうございます!!
これからも末永く、よろしくお願いいたします。

未希






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