仕返し

「ねぇ、幸成」
「んー?」

私の前を歩く幸成に声をかけてみるけど、幸成は振り向こうともしない。
どうせまたケータイいじってるんだ。

「幸成ってば!!」

立ち止まって少し大きな声で呼んでみる。
やっと幸成は立ち止まってこちらを振り返った。

「どうしたの?」

いつもと変わらない顔でそう尋ねられる。
なんか……むかつく。
どうして幸成はいつもそうなの?!

「幸成、本当に私のこと好きなの?」

気付いたらそう口にしていた。
幸成はぽかんとしている。
なんなのよ、その顔は。

「遥……熱でもある?」
「ないよっ!!」

なんで私こんな喧嘩腰になってるの……?
もう、自分で自分がわからない。

「じゃあ、どうしたの? 急にそんなこと言うなんてさ」

急にじゃないよ、幸成。
私、ずっとずっと思ってた……。

「だって……付き合ってから幸成、なんかそっけないし。
いつもいつも、こうして一緒に帰ってても私のことなんか見ようともしない。
ケータイ触ってて、誰かとメールしてて、私なんてほったらかし。
呼んでも振り返ってくれないし……どんどん先に歩いていっちゃうし……」

気持ちを言葉にしたら、なんだか涙が出てきた。
悔しい。こんな所で泣くなんて。

「やっと……反応示してくれたね」
「え?」

幸成の口から出た言葉に、意味がわからずに私は幸成の顔を睨むように見つめた。
幸成はただにこにこと笑っている。

「どういう意味?」
「だってさ、俺たちが付き合う前のこと遥覚えてる?」
「付き合う、前のこと?」

付き合う前。
私と幸成はただのクラスメイトだった。どこにでもいる、ただのクラスメイト。
だけど私はずっとずっと幸成のことが好きで、だけどその他大勢の子と同じになるのが嫌で……。

「遥、俺にすっげぇ冷たかった」

幸成は拗ねたようにそう言った。
それは……。
他の子と同じに見られたくなかったから。
幸成の周りにはいつもたくさんの人がいた。
人当たりのいい幸成は女の子からすごく人気で、告白だって何度もされてて。
自分もそんな中に入る気にはとてもじゃないけどなれなかった。
私は皆と同じじゃ嫌だったの。
『特別』でいたかったの……。

だから、冷たく接した。
だって幸成に冷たく接する人なんか一人もいない。
私だけ。
嫌でも、印象に残るでしょう?

「だから遥に告白されて俺めちゃくちゃ嬉しかった。俺もずっと好きだったから」

そう言って幸成は笑う。
あの日、私が告白した日のように。

「だけど俺わかんなかった」
「何が?」
「遥の気持ち」
「私の……?」

立ち止まったままの私達の横を、優しい風が通り抜けていく。
幸成はそっと私から目を逸らした。
ぐるっと周りを見て、また私に視線が戻る。

「今まであんだけ冷たくされてきたから……遥が本当に俺のこと好きなのかわかんなくて……」

幸成がそこまで言って、私はようやく答えを見つけた気がした。
付き合ってから今まで、幸成が少し冷たかった理由。

「仕返し、だよ」

そう言って幸成は、べっと舌を出して笑った。
もぉ……なんなのよ。

「バカ幸成……」
「なんで俺がバカなの?!」
「バカだよ!! 幸成は大バカ!!」
「そこまで言いますか遥さん……」

私にバカバカ言われて幸成はしょんぼりとしてしまう。
そんな幸成が可愛くって、愛しくって、思わず抱きしめそうになってしまった。




「ね、俺に冷たくされて悲しかった?」

あれから私達は、手を繋いで帰り道を歩いた。
その途中、幸成がそんなことを尋ねてくる。
だから私は答えるの。

「全然?」
「えー、遥ー」

私に仕返ししようなんて、百年早い。





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