優しく傷つけて

「優一……」

離れた唇。
すぐ側にある、優一の顔。

「恵、今日泊まってもいい?」
「えっ?」

息がかかるくらいのその距離で、私は優一を見上げる。
優一の腕は私の腰に回っていてその熱を伝える。

「ダメ?」
「や、でも……」

どうして?
どうしてそんなこと言うの?
だって優一は、優一には……。

「俺、今日は恵の側にいたいんだ」
「優一……」

嬉しい。
そう言ってもらえて嬉しい。
でも、でもね?

「ダメ、だよ。ちゃんと帰ってあげなきゃ」
「彰んとこにいるって言えばバレないよ」
「そんなの彰君にも悪いよ」

今更、だ。
優一とこうしているだけで既に私は罪を犯しているのに、何が今更「悪い」のか。

「恵? 俺と一緒にいるのは嫌?」

そんなわけない。
優一と一緒にいたい。
出来るのならいつも、どんなときも。
こうして隠れて会うんじゃなくて、堂々と会いたい。
でもそれは、出来ない。

「優一、私は、優一の彼女じゃない」

その言葉を自分で言うのは辛い。
でも、優一に言われるのはもっと辛い。

「恵……」

優一は切なげに私の名前を呼ぶと、ぎゅっと私を抱きしめた。
私はそのぬくもりに身を預ける。

「ごめんな。俺がこんなんだから、恵のこと、傷つけてるんだよな」
「違っ!!」

優一の腕の中で私は首を振る。
違う。優一が悪いんじゃない。
優一は何も、悪くない。

「いいの。優一、謝らないで。優一になら、いいの……」
「え?」
「優一になら、傷つけられたって平気」

その傷すら、私は愛せるだろう。
優一がくれたものならば。

「恵……」

優一は、私のものにはならない。
それがわかっていても、私のこの気持ちは枯れない。
いつまで経っても燃え尽きることがない。

「ごめんね、優一。離れられなくてごめんなさい……」

私が自分から優一から離れれば、それですべて終わるだろう。
優一はきっと私を追わない。
だけど私にはそれが出来ない。

「恵、やっぱり今日泊まらせて」
「優一……」
「優しく、するから……」



そうして私は、優一という波に呑まれる。
優一の手が優しく動く度に、私は心にひとつ傷を負う。
でもいいの。それでいい。
きっと、この傷を負えるのは私だけ。
あの子には負えない、傷。








ねぇお願い。
優しく傷つけて。
どこまでも私を溺れさせて。
いつまでもいつまでも消えない炎を灯して。



ヤサシクヤサシクキズツケテ。





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