【サイト6周年記念:卒業。そして…】

「んじゃ、卒業おめでとう」

そう言って棚橋が掲げたグラスには、シュワシュワと泡立つシャンパンが入っている。
棚橋の言葉に満面の笑みを見せた雨宮は、自分も同じようにグラスを掲げた。

「ありがとー!」

二人のグラスがぶつかると、気持ちのいい音がした。
今日は、雨宮の卒業祝いだ。

「ようやく卒業か。長かったな」
「そう? たったの2年じゃん。正直全然足りないんだけど」

服飾の専門学校に通っていた雨宮。
高校のときのようにサボることはほとんどなく、無事に卒業を迎えた。
棚橋との関係はずっと、相変わらず。

「お前がこれから社会人とはなぁ」
「なんだよ。文句あるのか」
「世も末だな」
「殴るぞ棚橋」

春から雨宮はデザイン事務所で働くことになる。
専門学校時代に雨宮のデザインを一目見て惚れ込んだという事務所のオーナーから誘われたのだ。

「でもほんと運が良かった。
ぜーんぜん就職先決まらなくてどうしようかと思ってるときに北大路さんがそれならうちに来ないかって言ってくれて」

北大路と言うのがそのオーナーの名前だ。
40代のとても紳士的な男性、というのが雨宮の印象。
その話を聞いた棚橋は、若干面白くない。
決して口には出さないが。

「お前、これからのこと考えてるのか」
「これから? 就職してからってこと?」
「そうじゃなくて……」

棚橋は、ずっと待っていた。
雨宮が“学生”でなくなるのを。
本気で、雨宮と結婚するつもりだったから。

「俺たちの将来って意味で」

棚橋の言葉に、雨宮は絶句した。
今までにも、何度か冗談めかして言われたことはある。
だが、こんなふうに言われたのは初めてだった。

「えーっと……ごめん、考えてるけど、今すぐ具体的には考えらんない。
まずはちゃんと働かなくちゃとか思うし」

これからもずっと、棚橋と一緒にいる。
それは雨宮の中で揺るぎないものだった。
もう、棚橋の隣以外、考えられないのだ。
でも。

「卒業したからいきなり棚橋と結婚とかは、正直、無理」
「……ま、だろうな」

棚橋もわかっていた。
わかってはいたのだが。
抑えられない気持ちが自分の中にあることも否定は出来なかった。

「これ言ったらお前、絶対爆笑するしな」
「は?」

雨宮が首を傾げていると、棚橋はグラスの中のシャンパンを一気に飲み干した。
そしてまたグラスにシャンパンを注ぐ。

「お前みたいな女、ちゃんと捕まえとかないとどっか行きそうで気が気じゃない」
「はぁ?! な、何言ってんの!!」

顔を赤くした雨宮が大声を出す。
すぐに恥ずかしさから身を縮めたが。

「とにかく俺は早くお前を嫁にしたいの」
「あんた……酔ってるの?」
「これぐらいで酔うかよ」

今日の棚橋はおかしい。
いつもおかしい人種だが、今日は特におかしい。
雨宮はそう思わずにはいられなかった。

「あたしだって……棚橋の、嫁になりたいんですけど」

それは本音だ。
今すぐは考えられない。
でも、いずれは、棚橋と。

「じゃあなれよ」
「だから今は……」
「結婚してたらなんか問題あるのかよ」
「別にないけど……」

子供じみたやりとりをしているなと、棚橋は思った。
駄々をこねて、自分の感情を相手に押し付ける、小学生のようだ。
けれど、雨宮の「卒業」が棚橋の中のブレーキを消し去っているのは事実だった。

「……はぁ。俺バカかな」
「まぁ、否定はしない」
「おい」

そのやりとりに、雨宮は笑う。
これがいつもの二人らしい、と。

「あんたが十分待ってくれたのはわかってるんだけどさ……もう少しだけ、時間ちょうだい」

そう言って笑った雨宮は、もうあの高校生の雨宮ではまったくなくて。
ずっと自分の隣にいるはずなのに、棚橋はこうして時々ハッとすることがある。
いつの間にか、どんどん、大人の女性に。
だからこそ、焦る。
早く、この手に。

「仕方ねぇなぁ。早く決断しないと他の女見つけるぞ」
「冗談でもそんなこと言うなアホ! 本気で殴るよ!!」

そんなこと出来やしない。
こんなにもお互いに想い合っているこの二人には。
だから、閉じ込めておきたくなる。
それほど、愛しいから。


二人の想いが本当に重なるのは、もう少し先のお話。




【あとがき】
気が付いたらもう9月になっていました。
それでも今年は早い方だなんて、おかしいですよね。笑

ということで、当サイトは今年の7月で6周年を迎えました。
そりゃ私も年取るわー!って感じでありますが。
これからも細々とやっていけたらなと思っています。
7年目も、どうぞ皆様よろしくお願いします。

2014.09.03 未希






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