【サイト5周年記念:Happy Happy Birthday】

「すごー!! 広いー!!」

雨宮が歓喜の声を上げる。
その横で、棚橋が満足そうに笑っていた。
二人の前に広がるのは純和風の部屋。

「あちらに露天風呂があります」

案内をしてくれた仲居さんが、二人を誘導しながら部屋の奥へ足を進める。
襖を開けると、そこにはまた小さな部屋のような場所。
テーブルと椅子がある。
その先に、今度はガラス戸。
その向こう側に露天風呂が見えた。

「めっちゃ素敵ー!!」

雨宮のテンション、ここでMAXである。
棚橋はやはりそんな雨宮の様子に満足そうだった。

「どうぞお好きなだけお楽しみください」

そう言った仲居さんは二人に頭を下げ、部屋を後にした。
雨宮は外に出て露天風呂をマジマジと見ている。
そしてキラキラした瞳で棚橋を振り返った。

「棚橋、あたし早速これ入る」
「あぁ、いいんじゃねぇの? 夕食までまだ時間あるし」

ガラス戸に手をかけ、棚橋は笑った。
はしゃぐ雨宮を見ているのが楽しかった。

「棚橋は?」
「先入っとけよ。俺ちょっとビール買ってくる」

そう言うと棚橋は財布を持って部屋を出ていった。
雨宮はそれを特に気にすることもなく、一度ガラス戸の小部屋に戻り、タオルなどを準備する。
そしてすぐに服を脱ぎ、タオルを持って露天風呂へ。

「うわー、めっちゃ最高じゃん何これ」

露天風呂付きの客室がある旅館に行こうと言い出したのは雨宮だった。
ネットで見ていて無性に行きたくなってしまったのだ。
それならばと棚橋が提案したその日程は、雨宮の誕生日を含めた2日間だった。
1泊2日の温泉旅行が、今年の棚橋から雨宮への誕生日プレゼントだ。

「つうかマジ贅沢。あたし一円も出してないのに」

露天風呂に浸かりながら、雨宮は呟く。
今回の旅行代金、すべて棚橋持ちだ。
雨宮はもちろん自分の分は自分で出すと言ったが、それじゃあ誕生日プレゼントにならないだろうと言われて黙った。

「あー、でも気持ちいいー。温泉最高ー」

露天風呂の先は、小さな庭のようになっていた。
そして更にその先に見えるのは、海。
まだ明るいこの時間。
青い空と青い海。そして手入れの行き届いた庭の木々。
最高の景色だった。

「よぉ、どうだ、一人だけで入る露天風呂は」

後ろからそんな声が聞こえて、雨宮は振り返る。
するといつの間に帰ってきたのか、手にビールを持った棚橋がガラス戸に寄りかかっていた。

「うわっ、あんたいきなり現れないでよ!」
「なんだその言い方」
「あたしにもなんか買ってきてくれた?」

棚橋を見ると、手にはビールがあるだけ。
それを見て雨宮は若干頬を膨らませる。
自分だけかよ、と。

「向こうにお前がいつも飲んでるお茶買ってきて置いてある」
「ならばよし」
「何様だ」

呆れた棚橋が言うと、雨宮はにっと笑った。
そして棚橋に向かって手招きする。

「棚橋も入ればー? めっちゃ気持ちいいよ?」
「そんなに俺と入りたいの?」
「バカじゃないの?」

いつも通りのやりとり。
そしてこの後、棚橋も一緒に露天風呂に入るのだった。



「なんじゃこりゃー。めっちゃ美味しそう」

目の前に並ぶ料理に、雨宮は目を丸くした。
夕食の時間になって二人は食堂へ移動した。
この旅館は部屋ではなく、食堂で食事をとる。
受付のときに指定した時間にそこへ行けば、次々に料理が運ばれてきたのだ。

「お前めちゃくちゃ贅沢な誕生日だな」
「ほんとだよ。マジでビビるわ」
「俺に感謝しろよ」

いつものように偉そうに言う棚橋を、雨宮はじっと睨むように見る。
そしてふっと視線を逸らした。

「……マジで、感謝してる」

ぼそっと言った雨宮の言葉に、今度は棚橋が目を丸くする番だった。
こんなに素直な雨宮はそうそう見れるものじゃない。

「……安月給の俺にはこんくらいのグレードしか無理だけどな」
「え、十分でしょ」

この旅館については、二人でネットで調べて決めた。
だから宿泊代金がいくらかは、雨宮も知っている。
他の旅館に比べれば割とお手頃な値段だった。
だけど、そんなことはまるで感じないほど雨宮は満足していたのだ。

「ほんと、今回は棚橋を見直した」
「それ褒めてんのか、お前」
「一応?」

素直に「ありがとう」と口にするのは照れる。
だからこれが、雨宮にとって精一杯の感謝の気持ち。

「んじゃ、もう少し見直してもらうか」
「は?」

わけがわからないという顔の雨宮に、棚橋は四角い箱を差し出した。
瞬間、雨宮は一気に動揺し始めた。

「え、え、え、え、何これ」
「何って、誕生日プレゼント」
「はぁ?!」

赤い包装紙に包まれたその箱。
雨宮は手に取ることが出来なかった。

「だ、だって今年はこの旅行自体がプレゼントだって……!!」
「まぁ、そうだけどな。まぁなんでもいいからもらっとけよ」
「で、でも!」

申し訳ない。
いくら棚橋相手でも、ここまでしてもらうのは気が引ける。
やっぱり雨宮は、箱に手を出せない。

「いいから受け取れって」
「だって……」
「さっさと受け取れ。そんで飯食うぞ」

そう言って棚橋は目の前にあった箸を手にする。
箱をそのままにして食事するわけにもいかず、雨宮はようやくそれに手を伸ばした。

「……開けてもいい?」
「ご勝手に」

短く言った棚橋は食事を始める。
雨宮は包装紙を開けた。
出てきたのは白い箱。
そして箱から出てきたのは、見覚えのあるものだった。

「これ、前に欲しいって言ってた時計じゃん!!」

いつだったか、二人で買い物に行ったときに雨宮が欲しがった時計。
でもそれはちょっと自分で買うには高いもので。
そのときの棚橋は全然興味がないような素振りをしていたのを、雨宮は記憶していた。

「あんた何こんなイケメンなことしてんの!!」
「なんじゃそりゃ」

雨宮の言葉に、棚橋は食事を吹き出しそうになる。
だが雨宮はそんなものはお構いなしに、嬉しいような申し訳ないようなわけがわからないような、複雑な表情をしていた。

「もうやだ……。なんなのあんた……」
「いらないなら返せ」
「いるに決まってるでしょうが!!」

そう言った雨宮の目には、涙が浮かぶ。
棚橋はそれに、気付かないフリをする。

「ほれ、食えよ。冷めるぞ」
「……うん」

まさか、だった。
まさか棚橋がこんなことをしてくるとは、雨宮は夢にも思っていなかった。
嬉しくて、でもなんだか恥ずかしくて。
なんだかんだ言ってしっかり“恋人同士”な自分たちが、少しむずがゆい。
それでも棚橋が自分のことを大切にしていてくれることを、今雨宮は全身で感じていた。

「ありがと、棚橋」

本当に、小さな声で。
雨宮はぽつりと言った。
棚橋に聞こえなくていい。
本当に自然に、その言葉は出てきた。
だから、向かい側の席で棚橋が小さく笑ったのも、雨宮は見て見ぬフリをする。

「ゆう」
「何?」

呼ばれて顔を上げれば、いつもの意地悪い笑顔の棚橋がいた。
この笑顔が、一番落ち着くだなんて棚橋には言えない。

「誕生日おめでとう」

絶対に、言えない。




【あとがき】
今年も大変遅くなりましたが、サイト5周年の記念小説です。
いやー、もう5年ですか。早いですね。
今年は「嫌いだから愛してる」で書いてみました。
この二人好きだなぁ、としみじみ。
ちなみにこの温泉旅行は自分の体験談を元に書いてます。

これからもぼちぼちと頑張っていきます。
6年目もどうぞよろしくお願いいたします。

2013.11.13 未希






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