番外編:対面【2】

「へぇ。優希と付き合ってるのか」
「はぁ、まぁ。すいません、卒業してからとは言え、こんな職業の人間が娘さんと」
「いやいや、俺は別にそういうこと気にするタイプじゃない」

あれから、棚橋は柊と二人で飲み始めた。
雨宮はそれを気にしながら働いている。

「俺のことは、優希から聞いてる?」
「まぁ、少しだけ。あいつはあまり自分のことは話しませんから」

それは雨宮だけに言えたことではないのだが。
棚橋も、自分のことはあまり話さないタイプだ。

「見ての通り、嫌われてる」

自嘲気味に言った柊。
棚橋は酒を飲みながら彼の横顔を見ていた。

「失礼なことを聞きますが、貴方はあいつのことをどう思っているんですか?娘として」

ずっと、思っていた。
雨宮はあれだけ自分の父親のことを嫌っている。
じゃあ、父親である柊は、雨宮をどう思っているのだろう、と。

「幸せになってほしいと思ってるよ。純粋にね」
「幸せに……」
「俺は何もしてやれなかったから」

棚橋は柊の顔をじっと見てみる。
その表情は、嘘をついているとは思えなかった。

「でもあいつはきっと、この先もずっと俺を憎み続けるだろうな」

悲しみを携えた瞳で柊は言う。
彼にも少なからず、父親としての心があるのだろう。

「別にあいつは、貴方を憎んでいるわけじゃないと思いますけどね」

棚橋の言葉に、柊はやや驚いた表情を見せた。
雨宮の態度からして、自分は憎まれていることに間違いはないと柊は思っていた。
なのに棚橋は違うと言う。

「あいつは……貴方が“父親”だという事実は決して否定しないんですよ」

柊はまた首を傾げる。
そんな柊に棚橋は笑って見せた。

「憎んでいたら、貴方が父親である事実すら、否定したくなるでしょう。
でもあいつはそれは絶対にしない」

柊が自分の父親であるという事実から、雨宮は一度も逃げようとしたことがなかった。
そんな雨宮を棚橋は見たことがなかった。

「あいつは学生の頃、貴方のことで随分苦しんできた。
俺はそれをずっと見てきました。
他人から見えないところでは、泣いてたと思いますよ」

そのとき、棚橋の背中に鈍い痛み。
ドスッという音と共に、棚橋は前に崩れる。

「いってぇ」
「勝手なことベラベラ喋るなっつうの」

棚橋の背中にめり込む雨宮の拳。
いつの間にか雨宮は棚橋の後ろに立っていた。

「お前客に何すんだ」
「客ならおとなしく酒飲んでろ」

そう言って雨宮は仕事に戻る。
その後姿を目で追いながら、棚橋は笑った。

「あいつは頑固ですから」
「ん?」
「一度張った虚勢はすぐには崩しませんよ」

その言葉の意味を、柊はゆっくりと考えた。
なんとなく、棚橋が何を言いたいのか、わかった気がした。

「君がいれば、優希は大丈夫かな」

柊はくすりと笑い、カウンター越しに自分の元妻を見た。
彼女はその視線に気付くと、微笑んで頷いた。

「優希を頼むよ」
「……はい」

そうして棚橋と柊は、グラスを合わせた。





「そんじゃあ俺は帰るから」

あれから随分と時間が過ぎ、柊は立ち上がった。
同時に棚橋も立ち上がる。

「棚橋君ありがとな。話せてよかった」
「いえ。こちらこそ」

頭を下げる棚橋に柊は笑って見せる。
そして柊は、視線を雨宮へと向ける。
雨宮は他の客相手に注文を取っているところだった。

「優希っ!!」

大声で呼ぶと、雨宮は驚いて振り返る。
柊は右手を高々と上げた。

「また来る!!」

笑顔でそう言った柊に、雨宮は呆れ顔。
ひとつ溜息をつき、注文を取っていた客に一言何かを言ってからこちらに歩いてきた。
柊の目の前に立ち、彼を見上げる。

「憎んじゃいないけど、大嫌いだから」

一言そう呟いた雨宮に、柊は一度固まった。
そしてすぐに笑顔を零す。

「嫌よ嫌よも好きのうち、だよな?」
「あんたバカじゃないの?」

冷めた目で言い放った雨宮は、仕事に戻った。
柊と棚橋は顔を見合わせる。

「やっぱり、嫌われてるな」
「ですねぇ」

そう交わし、笑う。
雨宮はそんな二人に気付かないフリをして、仕事を続けた。




【あとがき】
父親登場。
まぁずっとこの父娘の対面は書きたかったわけですが。
今回が第1段階ということで。
根本的解決には至ってないと思うので、もう一度ぶつからせてみたいと思ってます。
雨宮の心の中は非常に複雑になっているんだと思います。
「憎んでいない」は本心でしょうが、「大嫌い」もまた本心。
棚橋の存在がその気持ちをどう変えるか、ですね。
久々のUPでした!!!






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