番外編:カギ

「これ、お前にやるよ」

雨宮と棚橋が付き合い始めて最初の冬がきた。
もうすぐクリスマスということで、街は華やぎ、賑わいを見せている。
だがこの二人は、今日も棚橋の部屋でくつろいでいる。

「何これ」
「見ての通り、鍵」

棚橋から雨宮に手渡されたのは、キーホルダーも何もついていない鍵。
雨宮は自分の手の中にある鍵と棚橋を交互に見る。

「ご飯、作っとけと?」
「さすがだな、ゆう。呑み込みが早い」

にやりと笑った棚橋は冷蔵庫からビールを取り出す。
ソファーに座ってプルタブを開けると、一気にビールを喉に流し込んだ。

「いや、全然嬉しくない」
「まぁそう言うなよ。お前のが帰ってくる時間早いし」

棚橋の向かい側に座っていた雨宮は深い溜息をつく。
これは、一体どっちに取ればいいのだろうか。
いつでも部屋に入っていい。彼女なのだから。
そういう特別扱いからくるものか。
それとも本当に、自分に夕飯を作らせるためなのか。

「あんたってホント、どっちでもありえるから嫌なんだよね」

雨宮の言葉の意味がわかっているのか、棚橋は楽しそうに笑う。
そんな棚橋に様子に雨宮は苛立っていた。

「ゆう、こっち来いよ」

缶ビールをテーブルに置いた棚橋は雨宮に向かって手招きをする。
雨宮は顔を背けてそれを無視した。

「ゆう。ゆーうー。おい、雨宮」

久しぶりに苗字で呼ばれ、思わず雨宮は棚橋と目を合わせてしまった。
いつしか“ゆう”と呼ばれることに慣れ、安心を覚えていた。

「苗字で呼ばないでよ。なんかもう、今じゃそっちのがハズイ」
「だったらこっち来い」

あくまで命令口調の棚橋。
だけど何故か、それに従ってしまう雨宮。
逆らいたいと思っているのに、最近ではそれが本当に難しい。

「こんのクソオヤジ」

せめてもの反抗として、軽い暴言を吐いて雨宮は移動する。
隣に座った雨宮を、棚橋はすかさず抱きしめた。

「誰オヤジだ、誰が」

言いながら、雨宮の首筋に唇を寄せる。
雨宮も一切抵抗しようとはしなかった。

「あんた以外いないだろ」

棚橋の首に腕を回す。
だけど、口だけは素直じゃない。

「そのオヤジと付き合ってんのは誰だよ」
「誰でしょうね」

棚橋の手が雨宮の服の中に入り込んでも、二人のやり取りは終わらない。
普通の恋人たちが「好き」だの「愛してる」だのを交わすように、二人はお互いをけなしあう。
つくづく素直じゃないこの二人。

「お前、んなこと言ってると明日立てなくなるぞ」
「もうおっさんなんだからあんまり無理しない方がいいんじゃない?」

くすくすと笑いながら、二人はお互いの服を脱がしていく。
そうして、ゆっくりと顔を近づけて、唇が触れ合う。
それを合図に二人は言い合いをやめた。
あとはただ、本能のままに。






「ゆう、わかってるよな?」
「何が?」
「鍵の、本当の意味」
「知らない」
「お前って奴は……」
「なーんにもわかんない。微塵もわかんない」
「ホント性格悪いよな、お前って」
「どっちがだっつうの」

そんな言い合いが、彼らの愛の言葉。




【あとがき】
第三弾はちょっとバカップルテイストで。笑
時間的には本編最終話の前半と後半の間ですね。
この日から雨宮は棚橋の家にご飯を作りに行くわけです。
素直じゃない二人のやりとりは、書いてて面白い。
「好き」だとか簡単に言っちゃう関係が私はあまり好きでないのです。
照れ屋だから、っていうのもあるけど。笑
この二人のような関係はホント好きvv
だから書いててもホント楽しいです。






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