番外編:ドロー

「雨宮、ちょっといいか?」

三吉が雨宮を呼び出したのは、二年の冬だった。
あと1ヶ月ほどで春休みに入る、そんな頃。

「何? どしたの?」

雨宮と三吉がこうして二人で話をするのは、やや久しぶりだった。
棚橋の本音を聞きだすために卒業に向けて真面目に授業に出始めた雨宮と、相変わらず授業をサボり続けている三吉。
必然的に、二人が顔を合わせる回数は減った。

「いや、一応お前には言っとこうかと思ったんだけど、俺、ガッコやめる」

廊下で向かい合った二人。
三吉の言葉を聞いた雨宮は、表情を変えなかった。

「そう」

ただ一言、そう言った雨宮。
三吉は思わず吹き出した。
あまりにも自分が予想した通りの反応を雨宮が示したからだ。

「俺、仮にもお前の元彼だろ? もうちょっと悲しめよ」
「十分悲しんでるよ、バカ」

その言葉も当然嘘だろうと思った三吉は更に冗談で返そうとしたが、雨宮の表情を見て声が出せなくなった。
雨宮は、ぐっと三吉を睨んでいる。

「棚橋から、あんたが退学するって聞いたあたしがどんな気持ちになったと思ってんだ」

三吉の退学は、1週間ほど前に棚橋から雨宮に伝わっていた。
それを聞いた雨宮は呆然として、何度も棚橋にそれは真実なのかと尋ねた。
だが棚橋から返ってきたのは「本当だ」という一言だけ。

「あんだけ授業サボってたらそりゃ進級なんか出来ねぇよ、バカ」

更に一層強く三吉を睨む雨宮。
三吉は何も言えなかった。
こんな雨宮を見るのは初めてだった。
いつもどこか飄々としていて、あまり感情を激しく表に出すことはないのだが。

「あんたはね、この学校で唯一のあたしの友達なんだよ。
あんたがいなくなったらあたし友達ゼロじゃん。最悪だよ」

あぁ、泣きそうだ、と三吉は思う。
雨宮の中に自分はちゃんと存在していた。
どんなに頑張っても、雨宮の中には自分は入れないと思っていたのに。

「お前それ……反則だ」
「バカ。一緒に、卒業したかったよ、三吉」

それは紛れもない雨宮の本心。
雨宮にとって三吉は、数少ない理解者だったのだ。

「まっ、俺には合わなかったんだよ。学校ってやつがさ。
お前みたいに頭良くねぇし……何よりめんどくせぇ」

そう言って三吉は笑った。
そんな三吉を見て、雨宮は思わず泣きそうになった。

「お前はちゃんと卒業すんだろ?」
「当たり前だ」
「じゃあ、卒業式の日は会いに来てやるよ」

偉そうに言った三吉の肩を雨宮が殴る。
それがまた、手加減なしの攻撃で。

「いってぇ!!」
「うるさい。罰だ、罰」

そう言って雨宮は三吉に背を向ける。
三吉は肩をさすりながら雨宮の腕を掴んだ。

「雨宮、最後にちゃんと聞かせろよ」
「何を」
「お前、棚橋が好きなんだよな?」

雨宮はゆっくりと振り返る。
ふっと、鼻で笑った。

「なんであんな奴好きにならなきゃいけないんだ。あいつは、敵だよ」

その言葉に込められた思い。
三吉はそれを知らない。
だけど十分だった。十分過ぎる答えだ。

「ふぅん。じゃ、負けんなよ」
「誰が負けるか」

本当は、きっともう、雨宮は負けている。
三吉は心の中でそう思った。
でも、彼女のことだから。
負けたままじゃ終わらないであろうことも知っている。
きっと、ドローくらいには持っていくはずだ。

「頑張れよ、雨宮。卒業式の日に、結果聞きに来るぞ、俺」
「高々と勝利宣言してやるわ」

それはとても雨宮らしい言葉で。
三吉は大笑いしながら雨宮の腕を掴んでいた手を離した。

「んじゃあな、雨宮」
「うん。またね、三吉」





「俺はお前が嫌いだ」
「だからお前に嫌われても俺は痛くもかゆくもねぇよ」

場所は変わって保健室。
現在6時間目の授業中。

「じゃあ雨宮に嫌われたらどうなんだよ」

突然の来訪者に、棚橋は本気で溜息をついた。
ちょうど仕事が一段落してのんびりしようとしていた矢先だった。

「雨宮は既に俺が嫌いだよ」
「はぁ?」

三吉は遠慮することなくいつも雨宮が座っていたベッドに胡坐をかく。
棚橋はもう注意をする気も失せている。

「あいつにとって俺は、天敵だからな」

そう言って笑った棚橋を見た三吉は、一人確信する。
雨宮は、決して負けていないのだと。
この二人の決着はもうついている。
そして、それを知っているのは恐らく自分だけだ。

「あーあ。ホント納得いかねぇ」

ぼやきながら三吉はベッドに横になる。
視界に入った天井はくすんでいて、まるで今の自分の気持ちのようだと思った。

「ドローだ、ドロー。お前ら、ドローだよ」

この言葉の意味を知る者は、誰一人としていない。




【あとがき】
番外編第二弾は三吉メイン。
三吉は3年に進級していないのでした。
雨宮&棚橋がまだお互いの気持ちを伝え合っていない頃。
二人がお互いを想い合っていることを知っていた唯一の人間。
そんな微妙な位置に立っていた三吉。
雨宮にとっての数少ない理解者。
もちろんその理解者の中に棚橋も入ってるわけですけど。

さて。まだまだ番外編UPしていきますよー。






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