番外編:崩壊の過去【2】

気がつけば、雨宮は病院のベッドの上にいた。
ベッドの脇に母親の姿を見つける。
顔のあちこちにガーゼを貼っていた。

「優希、気がついた?」
「母さん……あたし……」

ズキリと頭が痛む。
どうやら頭を打っているらしい。
だが、雨宮自身は覚えていなかった。

「まだ寝てなさい」
「……母さん、あいつは?」
「佐藤さん呼んで連れてってもらった」

母親の言う“佐藤さん”とは、父親のマネージャーだった。
その返答に雨宮は顔を顰める。

「なんで警察呼ばなかったの」
「……優希は、あいつが嫌い?」

質問には答えず、母親はそう尋ねてきた。
雨宮は迷うことなく頷く。

「そっか。なんで?」
「母さんを傷つけるから」

雨宮の答えに、母親は目を見開いた。
その後一度目を伏せてから苦笑する。

「優希、ありがと。母さんも、あんたが大事。だから……」

少しの沈黙。
雨宮はじっと母親の顔を見ていた。

「あいつとは、離婚しようと思う」

母親のその言葉を聞いたとき、雨宮は心の底からほっとした。
これで、母親が傷つくことはなくなる。
ようやく平和が訪れるのだと、そう思った。

「優希。あんたこれからあいつのことで色々言われるかもしれない。
でも、大丈夫でしょ? “雨宮優希”として、ちゃんと生きていけるでしょ?」

母親の表情はいつの間にか真剣なものに変わっていた。
だから雨宮も、真剣に頷く。

「これからは、二人で頑張ろうね、優希」

それからしばらくして、雨宮の両親は離婚した。




「血が繋がっていようとなんだろうと、あたしはあいつを父親とは思えない」

両親のことを、すべて棚橋に話した。
雨宮が両親のことを他人に話すのは、これが初めてだった。

「私は、雨宮優希だから」

そう言った雨宮の表情は、あの日母親に対して頷いたときと同じものだった。
棚橋もまた、真剣な表情で雨宮の話を聞いていた。ただ、黙って。

「……棚橋の両親は、どんな人?」

ふと雨宮が尋ねる。
自分のことをこんなに話したのは初めてで、照れる気持ちがあったからだ。
もう話題を変えてしまいたかった。

「俺んとこは普通だよ。
なんの変哲もないただのおっさんとおばさんだ」

棚橋は現在実家を出て、一人暮らしをしている。
実家にいる両親とはしばらく会っていなかった。

「へぇ。でもそういうのが一番いいよ、きっと」
「雨宮、お前……」
「あ、そろそろ教室戻るわ」

棚橋が何かを言おうとしたところで、雨宮が立ち上がる。
もう昼休みが終わる時間だ。

「じゃね、棚橋」

コーヒーカップを片付けて、雨宮は保健室を出て行った。
残された棚橋はコーヒーを入れ直す。

「ったく。そんな顔すんじゃねぇよ」

一人、呟く。
くしゃ、と前髪をかき上げて溜息をついた。

「思わず抱きしめそうになっちまった……」




【あとがき】
番外編第一弾は雨宮の両親について。
これは時期的には雨宮が3年生のときになります。
両親のことについてはまだまだ書いていくつもりです。
この頃雨宮は必死に卒業に向かって突っ走ってるわけですが。
棚橋は苦行のときね。笑
雨宮が好きだという自覚は既にあるわけなので。

こんな感じで番外編は本編と時間が前後してくるかと思います。
楽しんでいただけたら幸いです。






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