15

「えー!! 綺麗じゃん!!」

棚橋の部屋にやってきた雨宮の第一声。
意外にも綺麗に片付けられた棚橋の部屋。

「お前なぁ、俺をなんだと思ってんだ」
「いやだって普段のあんたから想像するに部屋は絶対汚いもんだと……」

そうして雨宮は部屋の中央に置いてあるソファーに座る。
棚橋はコートを脱いでしっかりとクローゼットに片付けた。

「案外几帳面なんだ? 棚橋って」
「お前と違ってな」
「失礼な!!」

雨宮だって、決してずぼらな性格をしているわけではない。
部屋は綺麗に整頓されている。
恐らく、今いる棚橋の部屋より綺麗だ。

「なんか変な感じー。棚橋の部屋にいるなんてさ」

パタパタと足をバタつかせ、雨宮は棚橋に笑顔を向ける。
棚橋は無言で雨宮に近づいていき、雨宮の顎に指を添えて上を向かせる。
雨宮が棚橋の名前を呼ぶより早く、その唇は塞がれた。

「ちょっ、棚橋っ?!」

唇が離れるとまず第一に雨宮が声を上げる。
顔を真っ赤にしながら。
そんな雨宮を見て棚橋は楽しそうに笑った。

「もう一回?」

そう言った棚橋の顔は、他のなんでもない、“男”の顔だった。
雨宮はその表情に吸い込まれ、気がつけばこくりと頷いていた。

「雨宮……」

名前を呼ばれ、唇を塞がれる。
背筋がぞくっとした。
なんとも言えない感覚が突き抜ける。
それから二人は何度も唇を重ね合った。










「ただいま」
「あぁ、棚橋。おかえり」
「飯はー?」
「出来てるー」

雨宮が高校を卒業して、早1年が過ぎようとしていた。
棚橋は相変わらず保健医として学校に勤め、雨宮は服飾の専門学校に通っている。
最近では雨宮が合鍵を預かり、学校が終わると棚橋の部屋にやってきて夕食を作るのがお決まりになっていた。

「どうだった? 今日の卒業式は」

今日は、棚橋が勤める高校の卒業式。
彼は雨宮が卒業した年から違う学校に勤務している。

「あぁ、5人くらいに告白された」
「うわっ、モテるじゃん、棚橋」

テーブルに料理を並べながら雨宮が笑う。
棚橋はコートを脱いで椅子に座る。

「一人ものすごい奴がいた」
「どんな?」
「無理だって言ってんのにすげぇ食い下がってきて」
「はは。そんだけ今日の棚橋が衝撃的だったんじゃない?」

今日の棚橋は、スーツ姿。
そして、髪の毛をセットしたのは雨宮。
1年前の雨宮の卒業式のときと同じ状態だ。
もちろん普段はボサボサの頭で通勤している。

「俺ってそんな違う?」
「違う違う。いい加減自覚しろ」

そうして二人は揃って食事を始める。
食事中はあまり会話をしないのがこの二人。
黙々と食事を続ける。

「ごっそーさんでした」

雨宮よりも早く棚橋が食べ終える。
そしてそのまま食後の一本。

「棚橋、禁煙するんじゃなかったの?」
「無理。俺に禁煙は無理」
「諦めるの早ぇよ。っつうかあたしが食べ終えるまでくらい待てないのか」

変わらない二人。
付き合うことになっても、その関係はあまり変わらない。
だが、変わったところもなくもない。

「ゆう、俺明日飲み会だから飯いらね」
「あ、そうなの?」

棚橋は、雨宮のことを“ゆう”と呼ぶようになった。
雨宮は変わらず“棚橋”と苗字を呼び捨てにするのだが。

「じゃあ明日は来なくていいってことだな」
「お前その言い方、いつも嫌々来てるみたいじゃねぇか」

二人の間に甘い空気が流れることは少ない。
日常生活では常に、いかに相手を出し抜くか、というようなスタンスだ。

「そんじゃああたしも明日は久々に合コンでも行くか!! 誘われてんだよね」
「行ってもいいけどお持ち帰りはされんなよ」
「えー、どうせなら行くなって言えよ」

頬を膨らませる雨宮に、棚橋はふっと笑う。
一度白い煙を吐き、煙草の火を消した。

「俺にヤキモチ焼かせようなんて100年早ぇ」
「うるさいよ、31歳独身」

二人の関係は変わらない。
今までも、恐らくこれからも。
でも……。

「いいんだよ。33歳には結婚するからな」
「へ? 誰と?」
「お前とに決まってんだろ? だからさっさと卒業しろよ」
「棚橋……」

少しずつ、少しずつ、二人を取り巻く空気は変わっていく。
柔らかく、温かいものに。





Fin


あとがき





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