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「棚橋ヘルプ!!!」
「断る」

ドアが開くと同時に聞こえてきた言葉に、棚橋は顔を上げずに即答した。
もちろんやってきたのは雨宮で。

「あんたN大出てるんでしょー!! 勉強教えてー!!!」
「は? 勉強?」

雨宮から出た予想外の言葉。
顔を上げた棚橋は雨宮が教科書とノートを抱えていることに気付く。
そういえば、と棚橋は思う。
来週からこの学校はテストが始まるのだ。

「数学まったくわからん!!」
「そりゃお前授業出てないからだろ」

すかさず入ったツッコミに雨宮は頬を膨らませた。
事実だから何も言い返せない。

「もぉー、マジで頼むって!!
今までは授業なんか出なくても大抵わかってたんだけど……あたしここ苦手なんだよ」

雨宮は、実はとても優秀な生徒だ。
授業はサボってばかりだがテストではそれなりの点数を取る。
だから教師たちも今までそんなに雨宮にキツイことを言ってこなかった。

「お前に数学教えるなんて……これは夢か?」
「うっさい。さっさと教えろバカ」
「それが人にものを頼む態度かアホ」

まるで小学生のような言い合いをした後、二人は数学をやり始めた。
元々飲み込みの早い雨宮は棚橋が言ったことをすぐに吸収していく。
棚橋が出した例題を雨宮がスラスラと解いていくのに、そんなに時間はかからなかった。

「あー、なるほどね。わかったわかった」
「お前って……ホント謎だよな」
「何が?」

教科書を片付けながら、雨宮は立ち上がる。
もう午後からの授業が始まる。

「なんで毎回授業サボってたくせにそんな理解が早ぇんだ」
「天才だからじゃないー?」

ふざけて言った雨宮はそのまま保健室を出て行った。
棚橋は小さく笑みを零す。

「あながち間違ってもいねぇから怖ぇんだよな」







「あ」

職員室から保健室へ戻る途中、棚橋は一人の生徒とぶつかりかけた。
なんとか踏み止まってみると、生徒の方が声を上げる。
そしてすぐに、棚橋も小さく声を上げた。

「棚橋……」
「三吉、呼び捨てにすんな。ったくどいつもこいつも」

ぶつかりかけた生徒は、三吉だった。
三吉はキツク棚橋を睨む。

「なんでお前に睨まれなきゃいけないんだ、俺は」
「お前、雨宮の気持ち知ってんだろ?」

三吉は、棚橋のことを少しも年上だとは思っていない口調で言い放った。
だが棚橋はそんなもの気にも留めない。

「雨宮の気持ち?意地でも俺を捻じ伏せようという?」

笑いながら棚橋は冗談を言う。
そんな棚橋に三吉はイラつきを隠さなかった。

「てめぇはマジでむかつく」
「お前にどう思われようと俺は痛くもかゆくもねぇよ」

三吉の“悪意”にも棚橋は動じない。
そんな棚橋に三吉はまたイラつきを覚える。

「なんで雨宮はお前みたいな奴がいいだか……さっぱりわかんねぇ」

その言葉に、棚橋は苦笑した。
それは、棚橋自身だって思っていたことだった。
雨宮が自分をどう見ているかはもうわかっている。
だが棚橋だって、自分の何がいいのかわからずにいるのだ。

「とにかく俺はお前みたいな奴認めねぇ」
「はいはい。さっさと教室戻れよ、少年」

棚橋はポンと三吉の肩を叩き、通り過ぎていった。
残された三吉はなんとも言えない怒りを抱き、壁を殴った。





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