11

「そうだ。それでお前はここでサボるようになったんだよな」
「そう。なんか三吉と話してたらふと思い出してさ」

保健室。
雨宮はいつものようにベッドに座り、棚橋は仕事中。
だがいつもと違うのは、それが授業中ではないということ。
今は昼休みだ。

「……本気で三吉と別れたのか」
「うん。まぁね」
「まぁねってお前……」

呆れた顔をした棚橋が溜息をつくと、雨宮はにやっと笑う。
その笑顔に棚橋はぐっと言葉を詰まらせた。

「女に二言はないっ!!」
「お前って奴はホンットに……」

やれやれ、と言った感じで棚橋は額に手の平をあて、首を振った。






「あんたの本心、聞かせてよ……!!!」

あの日、そう言った雨宮に対して。
棚橋は目を見開いて驚いた。

「あんたがはっきりしないから、あたしだっていつまで経っても……!!」

棚橋の所為にするのは間違っている。
それはわかっていた。
でも、棚橋の行動のお陰で、どうしていいのかわからなくなっていたのは確かだった。
雨宮はそれをすべてぶつける。

「俺の本心、か」

小さく呟いた棚橋。
白衣のポケットから煙草を取り出して火をつける。
学校内は禁煙のはずなのに。

「俺は……俺は、この学校の保健医だ。そんで、お前はこの学校の生徒だ」

いつかにも聞いたその言葉を棚橋は繰り返す。
その答えを聞いた雨宮は、ブチ切れる。

「んなこと聞いてんじゃないっつうの!!
あんたいつもいつもそうやってあたしから逃げるじゃん!!!
あたしが聞きたいのは、そんなんじゃなくてっ!!!!」

もっとはっきりした答えがほしい。
棚橋が自分をどう思っているのか知りたい。
それを知らなければ、前に進めないと雨宮は思った。

「お前が好きだって言えば満足か?
それとも、もう俺に近づくなって言った方が満たされるのか?」

棚橋は、いつもと違う表情で雨宮を見ている。
雨宮の知らない棚橋。
それは、“大人の男”の顔だった。

「俺はな、社会人なんだよ。ここには仕事しに来てんだ。
そんでお前は学生。ここには勉強しに来てんだろうが」

先ほど煙草を取り出したポケットから携帯灰皿を取り出し、煙草を消す。
そうして棚橋はもう一本煙草を取り出した。

「……学校内禁煙」

雨宮は呟く。
棚橋はその言葉ににやっと笑い、一度吸ってすぐに消した。

「あたしが卒業したら、あんたは今の質問に答えてくれるわけ?」
「……さぁな」

曖昧に答える棚橋に、雨宮はまたむっとする。
そしてバンッと机を叩いた。

「あたし、三吉と別れる!!」
「は?」
「ちゃんと卒業してやろうじゃないの!!!」

まだまだ雨宮と棚橋の距離は遠い。
ならば。
対等な位置に辿り着いてやろうじゃないかと。

「卒業したら絶対にあんたから答えを聞き出す!! 意地でも答えてもらう!!!」

それは、雨宮から棚橋への宣戦布告。





「なぁ雨宮」
「何?」
「お前が卒業する前に俺が異動になったらどうするつもりだよ」

棚橋の言葉に、雨宮は動きを止めた。
正直そんなこと考えていなかった。

「……あんたの携帯の番号知ってるし。電話する」
「そこまですることかよ」
「もう意地なの」

棚橋への自分の気持ちだとか、棚橋の自分への気持ちだとか。
雨宮にとっては半ばどうでもよかった。
ただ、一度でいいから棚橋の本音を聞きたかった。

「じゃあ俺電話番号変えよ」
「あんたそんなにあたしが嫌いなのか」

そんなやりとりに、二人は顔を見合わせて笑った。





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