「三吉、あたし悪いけどもう授業サボるのやめる」
「は? なんでまた急に」
「進級、危ないから」

いつもの屋上。
雨宮は三吉と会っていた。いつものように。

「進級って……何を今更」
「やっぱ卒業はちゃんとしたいからさ」
「どうしたんだよ、雨宮」

ぐっと三吉に腕を掴まれる。
雨宮はそれを振り払った。

「ごめん。あんたと付き合うのももうやめる」
「はぁ?!」

言いたいことを言い終えると、雨宮は屋上から去ろうとした。
だがそれを三吉が許すはずもなく、腕を掴んで引き止められる。

「どういうことだよ、雨宮!!」
「どうもこうもないよ。手、離して」

ぐっと力を入れて三吉の手を振り払おうとしても、許されない。
強い力で腕を掴まれている。
痛みさえ、感じるほどに。

「いったいな!! 離せって言ってるだろ!!」
「いきなり別れるとか言われてもわけわかんねぇよ!!」
「もうあんたのこと好きだとかそういうふうに思えないから別れるって言ってんの!!」

雨宮の言葉に、三吉は一瞬体を硬直させた後、ふっと雨宮の腕を掴む手を離した。
そして柵に背中を預け、自嘲する。

「はっ。笑わせるよな。俺のこと好きだとか思えないって……それって今に始まった話じゃねぇだろ?」
「三吉……?」

三吉は何を言っているのか。
雨宮には理解が出来ない。

「お前最初から俺のこと、好きだと思ったことなんてないだろ?」

三吉のその言葉に、雨宮は強い衝撃を受けた。
自分の気持ちを思い返す。
甦ってくる記憶は、あの日、棚橋を食事に行った日。

“そんなに俺が好き?”

棚橋のあの言葉で、雨宮は気付いてしまった。
いつの間にか自分が本気で棚橋を好きになっていたことに。
だけどそれは決して許される想いではないこともわかっていた。
だから、気付いた瞬間に蓋を閉めた。
二度と表に出てくることのないように。

そして三吉と付き合った。
“自分を大切にしてくれる人間”と付き合った。
そこに、“愛情”はなかった。

「あ、たし……」
「いーよ。どうせわかってたし。棚橋のこと、好きなんだろ」
「なっ!!」

どうしてここで、三吉の口から、棚橋の名前が出るのだろうか。
雨宮には到底理解が出来ず、言葉が出ない。

「最初の頃ここで授業サボってたお前が、保健室に通うようになってここには一切来なくなった。
そんときに思ったよ。あー、雨宮は棚橋のことが好きなんだな、ってな」

そんなことはない。断じてない。
雨宮は思いっきり否定したかった。
自分が棚橋が好きだと思ったのはあの食事のときだ。
それ以前は、本当に棚橋のことはなんとも思っていなかったはずなのだ。

「あ、れ?」

雨宮は、突然わからなくなった。
自分は、何故保健室に通うようになったのか。
一体いつから、何がきっかけで、「サボり=保健室」になったのか。

「あ、あの日……」

思い出される記憶。
約1年前、初めて棚橋と言葉を交わしたときのこと。


すべては、そのときから始まっていた。





Copyright (C) 2008-2011 miki All Rights Reserved.