「雨宮、今度映画見に行かね? 俺、見たいのがあるんだ」
「んー? 映画による。何見たいの?」

屋上。
少し肌寒くなってきた今でも、雨宮と三吉はここで会っていた。

「タイトル忘れた。今よくCMでやってるだろ」
「なんだそれ。わかるわけないだろ」

雨宮と三吉は、それなりに上手くやっていた。
元々仲のよい二人だったから、なんの問題もない。

「とりあえず今度の日曜、ダメか?」
「はいはい。わかった。付き合います」
「なんだよ、その嫌々な返事」

三吉といるのは、苦痛ではなかった。
楽しいと思えたし、楽だった。

だけど、心のどこかに未だに何かが刺さったままだということもわかっていた。
そしてそれが何を意味するのかもわかっていた。
だが、見て見ぬ振りをしていた。

「映画付き合うからお昼奢ってね」
「マジかよ」







「あ」
「……よぉ」

ある日のこと。
昼休みに廊下を歩いていた雨宮は、偶然棚橋と出くわした。
あの日以来、保健室には決して近づくことはなく、棚橋とも一度だって会わなかった。
だが所詮同じ学校内にいるわけで。
こうして会ってしまってもおかしくはないのだ。

「聞いたぞ。彼氏が出来たらしいじゃねぇか」

淡々と言う棚橋。
雨宮は自分の中でぐちゃぐちゃになっている気持ちを思い出した。
また、心に刺さった何かが痛み出す。
だが、それを表に出すわけにはいかない。

「まぁね。あんたとは違うから」
「だから俺は今はそういうことに興味がねぇんだっていつも言ってんだろうが」

二人がこうして会話を交わすのは、いつ以来だっただろうか。
雨宮は今すぐ走って逃げたい衝動に駆られる。
そしてふと、棚橋がいつもの白衣を着ていないことに気付いた。

「あんた、これからどっか行くとこ?」
「あぁ、講習会」

棚橋はよくこうして講習会に出向いている。
それも仕事の一環だと前に聞いた。

「そっ。じゃあさっさと行けば」
「お前に言われなくても行くよ。っと思ったけどやべぇ。俺鍵閉めてくるの忘れたな」

棚橋の言葉に、雨宮は溜息をつく。
そして一歩足を踏み出した。

「閉めとくからさっさと行きなよ。職員室に返しとけばいいでしょ」

棚橋の横を通り過ぎるとき、彼を見上げて睨み付ける。
それに対して棚橋はふっと笑い、右手を上げた。

「すまん。頼んだ。行ってくる」

そうして棚橋は学校を出て行く。
雨宮はそのまま保健室に向かった。



「ハァ……」

保健室に入ると、何故か溜息が出た。
ドアのすぐ横にかけてある鍵を手に取る。
そのまますぐに部屋を出ようとしたが、思いとどまる。

「棚橋……」

部屋の主がいないその部屋は、しんと静まり返っている。
雨宮はそっと壁にかけてある棚橋の白衣に近づく。

「あたしは……」

棚橋の白衣に触れ、雨宮は目を閉じた。





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